雅な質問
いつも授業を終えると、悩める学生がものありげに、わざとらしくゆっくりと帰り支度を始める。
これは全世界共通なのかわからないですが、チュニジアの生徒に限って言えば圧倒的にみんなに質問を聞かれたくない人が多いです。
教室からみんな出ていくまでまだ支度が済んでいないふりをして、人がはけたところですいッと私の耳元でささやくように聞いてきます。
たいてい、授業の時に聞いてくれたらみんなでシェアできたのに!と、一人だけにこたえるのはもったいないようなことばかり。
でも、なんとなくみんなからは隠したい様子なのです。
そんな中、いつもするどい質問をしてくれることで私の中で有名になったパンクな医者の卵、ナセル君(仮名)。授業中、水の音読みスイに反応して
「アスイという季節が日本にあると聞きました。昔のカレンダーで。みずに関係があるんですよね。」
という。私は
「あすい?あつい?hotのこと?聞いたことないなぁ」
と、とぼけてしまった。
ナセル君はあついではないんだ、と言っていたけれど、私は何も思い浮かばずスルーしてしまった。
ちょっと不満な様子だったけど、そのまま授業は終了。
珍しく、ナセル君が例のそわそわ居残りをしていて、やっぱりみんながいなくなったところで寄ってきた。
「先生、さっきの季節のは、ウスイだったかもしれない。」
という。ウスイ、なんか引っかかるなぁと思って、私も彼の根に負け、うすい、季節、でググったのだった。
すると、出た。みなさんはご存知かもしれないんですが、これは雨水という、二十四節気の一つだとのこと。
無知な私はナセル君の博識ぶりに、すごいなぁ、というしかなかった。
ナセル君はドレッドヘアーからは想像もつかない落ち着いた語調で、
「日本の暦にすごく興味がある」
と雅なセリフを残し、教室を去っていった。