タバコと貧困

チュニジアには東西南北どこでも、「ハヌート」と呼ばれる小売店があります。

スーパーで売っているようなものを、狭い敷地に敷き詰めた、街中のキオスクの様な存在。

どこにでもあり、お酒以外のものは何でも揃う、チュニジア人の生活に無くてはならないものです。

私たちももちろんチュニジア在住ですから、よくハヌートのお世話になります。

 

 

昨日何かの買い物でハヌートによったら、横から若者がすっと入ってきて、タバコを1本だけ買っていった。

ハヌートは、例えば普通バラで買えないものをバラにして若干の割高で売っており、箱買いするお金が手元に無いときでも、タバコなりを買うことが出来てしまうのです。

 

こんな話も思い出しました。

友達のアミン君には、20歳そこそこでイタリアに渡ってしまった友達がいる。

アミン君自身、今でこそエンジニアとして成功してなりあがったものの、もとは貧しく、昔の友達もみな、貧しかった。

イタリアに渡った友達もご多分に漏れず。

 

アミン君の友達がそもそもイタリアに渡った理由は、「貧困恐怖症」だった。

アリアーナの貧しい地区で育った彼らは、貧困の怖さ、鬱屈感を、育ちながら肌で学んだ。

違法か違法でないか忘れてしまったけれど、とにかく彼は貧困から目を背けるべく、

イタリアに渡った。

 

何年たっても、彼は家族や友達に連絡をするけれど、帰ってこないそうなのである。

今ではあちらで仕事も見つかり、まっとうに生きているのだけれど、どうしても帰れない理由が彼にはあった。

彼がアミン君に電話をするたび、決まって聞くことがある。

「チュニジアでは、まだタバコをバラ売りしてる?」

「してるよ」

「じゃあ、まだ帰れないな…」

 

彼にとってタバコをバラで買う人がいることは、貧困の象徴で、

それが続いている以上、怖くて帰れないそうなのだ。

 

タバコを箱で買うまで、小銭を溜めて待てないということは、

貯金が無い、貯金をする気も無い、そのぐらいの小銭しか持つことが出来ない。

貧しさは加速するばかりです。

電話は1ディナールずつチャージし、タバコをバラで買い、高いものを分割で買い…

こうして小銭をどんどんつかってしまうというのは普段よく見ることですが、

結果毎月0になるか、マイナスになるか。

その問題の深さは計り知れないなとも思うのでした。