オジャとハッピーなオヤジ

だいぶん前のお話です、確か自分の個人日記に書いたお話。寒い時期になり、思い出した。

 

私は冬になると定期的にハンマームに行きます。バーブ・ハドラの外れにある、

床がすべすべで怖いハンマーム。

ハンマームあがりに横にある店のオジャ(肉やシーフードのトマト煮物、卵入り)でシメるのが

土曜日の定番だった。

 

あるとき、例によってハンマーム後、

レストランの外側においてある半立ち食いテーブルでおいしいな、おいしいな、

とオジャを食べていたら、ちょっと汚い目のオヤジが

「中国人か」

と聞いてきた。

「日本人」

とそっけなく答えてオジャを食べ進めると、オヤジはどこで覚えたのか不明の英語で

「ハッピーか」

と聞いてくるではないか。

 

 

ううん…まぁハッピーかと言われれば、お風呂あがりにおいしいものを食べれて、

ある程度はハッピーであるかな、とおもい、またそっけなくそうですねハッピーです。

と答えてみる。

 

オヤジは、かなり通じない英語でぼやぼやと何か言っており、ホテルアフリカがどうのこうの

言っているけど、私は食べるのに集中していたので完全無視。

オヤジは口数が少なくなった

 

 

かと思ったら

 

私のパンをちぎって、私のオジャをパンでぬぐい、食べた。

 

えっ…何…???

かなり引いたけれど、私は大家族の末っ子。食い意地では負けない。

お皿を自分に寄せ、不愉快であるという念を送るが、

オヤジはまたこういうのです。

「ハッピーか」

 

…ぜんぜんハッピーじゃない!!

わたしの大事なオジャをこのオヤジは、ハッピーかどうかの質問の投げかけとともに

食べ続け、私の取り分はかなり減っていた。

 

ここで、あぁ、と気付いた。

この人は格好からして路上の人で、こういう意味不明なアプローチによって、

人の食事を乗っ取って飢えをしのいでいるのだろう、と。

 

割と色々流せる私も、

この新タイプのおやじの対処は仕切れないと判断

半分ほど残ったオジャを明け渡し、テーブルを後にしました。

振り返ると、オヤジは私に礼をいうことなく、しっかりテーブルを陣取って

あたかも私のお皿ですよ~、私がオーダーしたんですよ~、というかのごとく、

たいへんハッピーなご様子でオジャを食べておりました。

 

後にも先にも、こんな悔しくむなしい食事をしたことはありません。